吐き気の原因は「胃」だけではありません。
いつ・どんなときに起こるかが診断の手がかりになります
吐き気(医学用語で「悪心」)は、消化器内科を受診する方に多く見られる症状の一つです。原因は胃腸の病気にとどまらず、神経・内分泌・薬剤・心理的な要因など非常に幅広いと考えられています。
前半ではタイミング別のセルフチェックと警告サインをまとめます。後半ではガイドラインに基づいた専門的な解説に進みます。
「いつ」吐き気が起きるかで原因を絞り込む
🍽 食後に吐き気
- 機能性ディスペプシア(FD)
- 胃排出能の低下
- 胃炎・胃潰瘍
- 胆石症
🌅 朝・空腹時に吐き気
- 十二指腸潰瘍
- 妊娠悪阻(妊娠中)
- アルコール性胃炎
- 副腎不全などの内分泌疾患
🔄 吐き気が続く・繰り返す
- 機能性ディスペプシア(FD)
- 逆流性食道炎(GERD)
- 慢性胃炎・ピロリ菌感染
- 薬剤の副作用
- ストレス・自律神経の乱れ
🤕 頭痛・めまいを伴う
- 片頭痛
- 脳圧亢進(くも膜下出血など)
- メニエール病
- 薬剤性
※ タイミングはあくまで一つの手がかりであり、複数の原因が重なることもあります。自己判断での原因確定は困難とされており、症状が続く場合は医療機関での評価が望ましいとされています。
⚠️ このサインがあれば早めに受診を
- 🩸 血を吐いた、またはコーヒー残渣様の嘔吐物がある
- 🌡️ 高熱を伴う
- 😣 激しい腹痛・頭痛を伴う
- ⚖️ 体重が急激に減っている
- 💊 新しく服用した薬がある
- 😵 意識がもうろうとする、または激しいめまいを伴う
- 📅 2週間以上吐き気が続いている
特に吐血(血を吐く)やコーヒー残渣様の嘔吐は上部消化管出血の可能性を示すサインとされており、速やかな医療機関受診が望ましいとされています。突然の激しい頭痛を伴う吐き気はくも膜下出血などの頭蓋内疾患の可能性もあるとされています。
ここからはガイドラインに基づいて、各疾患・病態をやや専門的に解説します。
吐き気(悪心)とは
吐き気は医学的に「悪心(おしん)」と呼ばれ、嘔吐(実際に吐くこと)の前駆症状として現れることもありますが、嘔吐を伴わずに悪心のみが持続する場合も少なくありません。嘔吐中枢(延髄)や前庭系・化学受容器トリガーゾーン(CTZ)などが関与する複雑な反射であり、消化管・神経系・内分泌系・薬剤など多様な要因によって引き起こされると考えられています。
消化器が原因の吐き気① 機能性ディスペプシア(FD)
慢性的な吐き気・胃もたれ・みぞおちの不快感の背景として、機能性ディスペプシア(FD)が関与しているケースは少なくないとされています。日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021 FD」では、FDは「症状の原因となる器質的・全身性・代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義されており、胃運動機能異常・内臓知覚過敏・脳腸相関の異常・ピロリ菌感染・心理社会的因子などが複合的に関与すると考えられています。
※ 同ガイドラインでは、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が器質的疾患の除外において重要な役割を担うとされており、FDの診断には胃潰瘍・胃がんなどの除外が前提とされています。
消化器が原因の吐き気② 逆流性食道炎(GERD)
胃酸が食道に逆流することで生じる逆流性食道炎(胃食道逆流症/GERD)でも、吐き気・胸やけ・げっぷ・喉の違和感などが現れることがあります。日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021」では、GERDの診断と治療においてプロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択薬とされており、症状の確認に上部消化管内視鏡検査が有用とされています。
消化器が原因の吐き気③ ピロリ菌感染・慢性胃炎
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染による慢性胃炎は、吐き気・胃もたれ・みぞおちの不快感と関連することがあるとされています。日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」ではピロリ菌除菌が潰瘍の再発予防に有効とされており、FD症状の改善にも除菌が寄与する可能性が示されています。
ストレスと吐き気の関係
心理社会的なストレスや自律神経の乱れが吐き気の誘因となることがあるとされています。前述のFD診療ガイドライン2021でも、心理社会的因子がFDの病態に関与することが示されており、不安・抑うつとFD症状の関連が指摘されています。また、慢性的なストレス状態では胃の運動機能や内臓知覚に影響が生じる可能性があるとされています。
※ 「ストレスが原因だろう」と自己判断する前に、胃カメラなどで器質的な病気(胃潰瘍・胃がんなど)を除外することが重要とされています。
消化器以外の原因
薬剤性
抗がん剤・抗菌薬・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)・オピオイド系鎮痛薬・一部の降圧薬など、多くの薬剤が吐き気を副作用として引き起こすことが知られています。新しく服用を始めた薬がある場合は、処方した医師や薬剤師への確認が望ましいとされています。
頭蓋内疾患・前庭疾患
くも膜下出血・脳腫瘍・脳炎など頭蓋内圧が上昇する病態では、吐き気・嘔吐が生じることがあります。「今まで経験したことのない激しい頭痛」と同時に生じる吐き気は、くも膜下出血を示唆する可能性があるとされており、緊急性が高い状態と考えられています。また、内耳の障害(メニエール病・前庭神経炎など)によるめまいに伴って吐き気が現れることもあるとされています。
内分泌・代謝疾患
糖尿病に伴う胃不全麻痺(gastroparesis)では、胃の排出能が低下し食後の吐き気・嘔吐・腹部膨満が生じることがあるとされています。甲状腺機能低下症・副腎不全などでも吐き気が症状として現れる場合があるとされています。
吐き気の原因を調べる主な検査
🔭 胃カメラ(上部内視鏡)
慢性的な吐き気・みぞおちの不快感に対して、胃炎・潰瘍・胃がん・逆流性食道炎・ピロリ菌感染などの器質的疾患を除外するために有用とされています。
🔬 血液検査
肝機能・腎機能・血糖・電解質・甲状腺ホルモン・炎症反応(CRP)などを評価し、内分泌・代謝疾患や感染症との鑑別に用いられます。
🖥 腹部超音波・CT
胆石症・膵炎・腸閉塞など消化管・胆道系の病変の評価に用いられます。急性腹症を伴う場合は画像検査が優先されることがあるとされています。
よくある質問
Q. 吐き気が続く場合、胃カメラは必要ですか?
慢性的に吐き気が続く場合、FD診療ガイドライン2021でも示されているように、胃潰瘍・胃がんなどの器質的疾患を除外する目的で上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が検討されます。特に40歳以上で初めて症状が出た場合や、体重減少・吐血を伴う場合は早めの評価が望ましいとされています。
Q. 吐き気とストレスの関係はありますか?
FD診療ガイドライン2021では、心理社会的因子がFDの病態に関与することが示されており、ストレスや不安・抑うつとFD症状の関連が指摘されています。ただし、ストレスが原因と断定する前に器質的疾患の除外が必要とされています。
Q. 頭痛と吐き気が同時に出るのはなぜですか?
片頭痛では吐き気・嘔吐を伴うことが多く、これは三叉神経血管系の活性化に伴う自律神経症状の一つと考えられています。ただし、突然の激烈な頭痛(「今まで経験したことのない頭痛」)を伴う吐き気はくも膜下出血の可能性があるとされており、この場合は速やかな救急受診が望ましいとされています。
まとめ
吐き気(悪心)の原因は、機能性ディスペプシアや逆流性食道炎・ピロリ菌感染などの消化器疾患から、薬剤・ストレス・頭蓋内疾患・内分泌疾患まで多岐にわたると考えられています。
吐血・激しい頭痛・体重減少・2週間以上続く吐き気などを伴う場合は、早めに医療機関での評価が望ましいとされています。
慢性的な吐き気の背景には器質的疾患が隠れていることもあるため、「そのうち治るだろう」と放置せず、原因を確認することが重要とされています。
医師監修:端山 軍 医師
医学博士/帝京大学医学部外科学講座非常勤講師
日本外科学会認定 専門医・指導医
日本大腸肛門病学会認定 専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会認定 専門医・指導医
日本消化器外科学会認定 専門医・指導医
日本消化器病学会認定 専門医・指導医
参考文献
- 日本消化器病学会(編)「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021 機能性ディスペプシア(FD) 改訂第2版」南江堂、2021年
- 日本消化器病学会(編)「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021 改訂第3版」南江堂、2021年
- 日本消化器病学会(編)「消化性潰瘍診療ガイドライン2020 改訂第3版」南江堂、2020年

